パン君とりー坊、その仲間のストーリーです。 |
2012年4月〜
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浴衣姿のパン君がジョシの部屋のほぼ中央にどっかとあぐらをかいて座り、 「俺のポート見てくれ」 とみんなに言って、右肩の部分の浴衣を少しずらした。 夕方かっぱバスを降りた私たちは、定山渓観光協会から宿泊先のニコニコホテルに歩いて来た。ダンシの部屋で夕食の準備があるため、ダンシがジョシの部屋に来た時のことだ。 パン君の表情は硬く、口はへの字にしていた。あぐらをかき、両手を膝に添えた姿はまるで、これから戦いに行く前の武士のようであった。 いや、病気を真っ向から受け止め、逃げも隠れもしない、そういう覚悟を持ったひとりの同級生の姿だ。 私は、「ポート」とは初めて聞く医療用語(たぶん)だった。リュウが入院してから、初めて聞く医療用語がけっこう出てきたが、またここでも出てきたのだ。病院では、話の前後からそのわからない言葉を解釈しているため、まめには質問はしていない。パン君の言った「ポート」もわからなかったけれど、やっぱり私は黙っていた。 そのまま遠くから見てみると、パン君の右の鎖骨のちょっと下あたりが、まるで皮膚の中にビール瓶の蓋を埋め込んだみたいに盛り上がっていた。抗がん剤を入れるためのものらしい。ポートという言葉を聞くのも初めてなら、見るのも初めてで、何て言っていいのかわからず、私はただ部屋の隅に座っていた。 すると、ポートを見た看護師のサラとまりえちゃんが、 「わあ〜!きれい〜!」 と言って、四つん這いで近づいて行った。そして、二人でいろいろな角度からポートを見て、やっぱり、 「きれいだわ〜!わあ〜きれい〜!」 と連発していた。 私は、ポートのどこがどうきれいなのか、逆に汚いとはどういう状態かさっぱりわからなかった。でもきっと、ポートの取り付け方が「いい仕事している」ということなのではないか?と、漠然と思った。 パン君ももしかしたら、ポートは自分のしか見たことないかもしれない。 意外とも思えるようなサラとまりえちゃんの反応に、パン君のへの字にしている口の口角が、少しばかり上にあがったような気がした。そして、武士のような目もいくらか和らいだように見えた。 (やっぱり、人間、なんでも褒められると嬉しいんだ) 私はそう思った。 |
2014.1.4 Vanilla記 |
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