パン君とりー坊、その仲間のストーリーです。 |
2012年4月〜
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私は二期生、よこけんは四期生。同窓生で一年間は同じ校舎に通っていたのだが、初めて会ったので、温泉に入るために待っていたエレベーターの前で私はよこけんに挨拶をした。 その後みんなでエレベーターに乗り込み、女子四人美穂とサラとまりえちゃんと私で温泉の女湯の大浴場に入った。 それぞれがからだを洗い、湯船につかった時にふいに美穂が言った。 「ちょっと、癌の切除の後の傷を見てみて〜。これなんだけど、傷の縫合とかヘタクソだと思わない?ね、ね?」 と笑顔で明るく言う。私は、 「本当だね!ヘタクソだねぇ〜!あははのは」 と笑ったら、お湯の中に涙がこぼれそうだと思った。 だから言葉が出てこなかった。それにその手術跡がきれいなのか汚いのかもわからなくて、黙っていた。もしもこれが同じ癌患者なら普通に言い返せるのかもしれない。 私が知っている美穂は高校時代の美穂、リュウと私の結婚式での私の友人代表の美穂、イブキの出産の時病院まで来てくれたり、お互い子どもが小さいとき、札幌に子どもを連れて遊びに来てくれたりの美穂だ。 その後は、いつの間にか年賀状だけの関係に。その間の立ち入ったことは知らなかった。だからお互いに時間を埋めるのにどこかピンと来ない感覚もつきまとう。 でもこうしてお互いの心をさらけ出し、こうして一緒に温泉に入れるようになって、やっぱりよかった。 このきっかけもパン君とりー坊の公表のおかげだなぁ。 夕食前の温泉も入りみんなが宴会場に揃った。 よこけんは、お風呂に入る前もリーゼント、宴会でもリーゼントヘアーだった。このことはずっと続き、リーゼントヘアーではないヘアースタイルを見たのはほんの一瞬だったが、次の瞬間見るともうリーゼントヘアーになっていた。 なぜか七期生のひで君が先輩の誰か(たぶんパン君)に前に出ろと名前を呼ばれ、みんなの前に座らされ、乾杯の音頭を取ることに。ひで君は、緊張もしているようで、正座で両膝に手を置き、挨拶を始めた。 「ナントカかんとかでカンパ〜イ!」 とひで君が言い、宴会が始まった。 美穂は私と久しぶりだったけれど、他のみんなとも久しぶりで、それぞれと近況報告していた。その度に、「え〜〜!」と美穂の驚きの声が聞こえてきた。 まりえちゃんが何回かりー坊に食べさせてあげていた。りー坊が自分で食べられなくなった時の将来の練習らしい。 みんなたくさん食べ、集合写真も写した後、持ち寄ったもので部屋で続けて飲むことに。 場所を移動し部屋に入りしばらくすると、パン君と美穂が会話を始めた。 「抗がん剤で髪の毛が抜ける時って、頭の下の方から抜けてくるよね」 「うん。抗がん剤が首から上に上がって来て、頭の下の方から抜けてくる。普通の禿げは上の方からだけどね」 「私、髪を切る仕事だから自分でバリカンで剃っちゃった。今度、パン君の髪の毛もバリカンで剃ってあげる」 二人の会話は、夢の中での会話のように私は聞こえた。 それと同時に、みんなの中で普通に会話をしていることが、嬉しくも思った。 誰かが変わったお酒を持ってきていた。ピサの斜塔をイメージした瓶で、瓶が斜めになっているのだ。 他にもみんなそれぞれが色んなお酒やおつまみを持ってきていて、それを食べたり飲んだり。 そのうちみんながそれぞれ心の中で気にしだしたことがあった。 そう!ここで先に寝てはいけない。と。 しばらく飲んでいるとまりえちゃんが、 「りー坊さんがいないです」 と言った。 「えっそう?今戻ってくるんじゃないの?」 「いえ、もうしばらくいないです、ちょっとひで君と探して来ます」 「そお?わかった」 そんな会話をした後、二人はりー坊を探しに部屋を出て行った。 しばらくして、はぁはぁ言いながら(?)戻って来た。 「どこにもいないです」 まりえちゃんとひで君が曇った表情で言った。 「そうなの?もしかしたらホテルの外に行ったのかな?」 私がそう言うと、 「いえ、もう私服があることは確認してあります」 とまりえちゃんが言う。 まるでこの部屋が七曲警察署刑事課捜査第一係みたいな感じになってきていた。 「もう一回探して来ます」 と言い残し、再びまりえちゃんとひで君がいなくなった。 しばらくしてまたはぁはぁ言いながら(?)、 「やっぱり、どこにもいないです。どこいっちゃんだんだろう」 「男湯の脱衣所も探したんですが」 と二人して戻って来た。 それっきり、りー坊が消えた。 |
2014.11.3 Vanilla記 |
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