ハゲ増す会始動する!

パン君とりー坊、その仲間のストーリーです。

2012年4月〜


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第4回ハゲ増す会



 第4回ハゲ増す会が2013年11月9日(土)10日(日)と一泊二日、場所は前回と同じ登別温泉の「巨大由緒ホテル」で開催された。
 パン君は、抗がん剤治療を根気よく続け、仕事も続けている。

 私は当日サラを助手席に乗せ、私が運転し、夕方四時くらいに二人で由緒ホテルに入っていった。パン君、りー坊、美穂、よこけん、まりえちゃん、みんなはもう着いていたようで、部屋の一室に集まっていた。

 サラと私が挨拶をしながら入っていき、部屋の真ん中の方の壁の近くに座った。
 その後から上下ジャージ姿の一人の男の人が部屋に入ってきた。
 入り口から真っ直ぐ部屋の中央に進み、そこで止まった。そうして90度向きを変えた。つまり、サラと私の方を向いたのである。

 兵隊さんみたいな歩き方・・・

 そう思って誰だろうとよく見てみると、タンクだった。タンクは偉い方の自衛官だ。

「サラさん、バニラさん、お久し振りです」

「あ、タンクさん、今着いたの?久しぶりだね〜!第一回ハゲ増す会以来だねぇ〜」
 私が言った。

「いえ、今着いたのではなくみんなとほぼ同時に着いていて、今、温泉街を走ってきました」
 ジャージ姿のタンクが言った。

「えっ!走ってきたの?」

「はい。明日の朝も温泉街を走ります」
 タンクはそう言った。そしてキャスターの付いた黒い旅行カバンをテーブルの脇に持ってきて、そこから見たことがない色々な物を出し始めた。

 そうしてタンクは、野営の準備を始めた!

 私は感心した。仲間との温泉一泊の時も常に体を鍛えるために走っている。それにあとでこの部屋で宴会が始まるのに、自分はここで野営の準備をしている。いついかなることが起こるかわからないので、常になにが起ころうとも自分を究極の状況に置いているのだ。日本のためにすごい。





 宴会が始まった。隣に相変わらず立派なリーゼントヘアーのよこけんが座った。よこけんは気の毒だった。なぜなら私が次から次へと質問をしたから。私は二期生でよこけんは四期生で一年間一緒の校舎にいたはずなのだが、お互いに記憶はない。

「つっぱりグループはね、たぶん、毎日タバコを吸っていたと思うんだよね、休み時間とかに。でもね、先生にそれで捕まったの見たことない。でね、いつもは吸わなさそうなつっぱりじゃないグループが、学校の近くの喫茶店で吸っていて、それが発覚して、停学になっていたの。それが不思議でね。つっぱりグループはなんで捕まらなかったんだろうね?」

 私がそう言い終わるやいなや、
「ハリヤクです」
と短い言葉できっぱりと言った。

「ハリヤク?」
 私は初めて聞く言葉をまた頭の中で色々な漢字に当てはめたりして考えた。

 ハリヤク?張り薬?HARIYAKU?

 私がピンとこないという顔をしていると、
「見張り役のことです」
と言い直してくれた。

「あー!見張り役?」

「はい、それかお店の人との信頼関係がなかったか」

 そうなんだ!つっぱりグループは、校内でタバコを吸うときは、「見張り役」を立たせていたんだ。先生が来たら、見張り役がそれを知らせに走る。それから喫茶店で吸うときは、お店の人をグル(?)にしていたんだ。そういえば、駅前の喫茶店ハーハイルに行った時、美術を選択した男子の油絵が壁に飾ってあったっけ。何らかのやりとりがあって、自分たちが描いたものを飾ってもらっていたよう。それで信頼関係を築いたんだろうか!?

 私はよこけんと色々話していると、よこけんの話し方が、ジョシ同士の話し方と違うことにだんだん気がついた。何というか、返事も早くて短くてイエスかノーかはっきりしていて、とにかくジョシ同士と全然違う。

 この話し方〜!あっ、そう言えば、ヤクザ映画で覚えある。

 私はそう思った途端、高校時代にタイムスリップした。

 3年C組の教室で、隣の席のりー坊が自分の教科書の隅に、
「おっ、バニラ、いいか、8たす9たす3はな!」
と言いながら「8+9+3」を書いた。

「ヤ・ク・ザは足しても1にもならないんだぞっ!」
と、どうだすごいこと言うだろ?という表情で私を見た。

 私は「う、うん」とうなづいた。

 何ヶ月かするとまた、
「おっ、バニラ、いいか、8たす9たす3はな!」
と初めて言うように言い、同じように自分の教科書に式を書き、同じことを説明してくれた。

 その何ヶ月後にまた同じことを言った。
 まるで初めて話すように。

 その時はわからなかったけれど、今の私なら「ものわすれ外来」での検査を勧めると思う。

 りー坊はヤクザの世界に憧れていたんだろうか。「義理と人情」? つっぱりグループって、ヤクザな世界なの???

 パンくんやりー坊の後輩にあたるタンクやよこけんは、気持ち良いくらいイエスかノーかがはっきりしていて、「従属とか隷属」とかからはまるきり違っていた。
 つっぱりグループは、お互いがお互いの事情を尊重して、できる範囲でつながっている感じ?持ち上げることもしないし、下げることもしない。相手を尊重すると書くと大げさになるけど、大げさにしないで、相手を尊重しているような感じ?

 でもパン君とりー坊は、どこでもタンクにほふく前進をさせたって聞いたけど・・・。




 宴会も終わりちょっと経ってから、みんなで館内のラーメン屋さんにラーメンを食べに行った。並んでカウンターに座り、食べてると暑くて汗がダラダラ流れてきた。食べ終わるとチャーシューが歯に挟まった。

 その後部屋に持ってきたものを持ち寄りまた飲み始めた。
 私は眠たくなってきた。でもジョシの部屋に引き上げるにしても「もう眠る」と言ったら何をされるのかわからない。禁句だ。

「ちょっとさっきラーメン食べた時、チャーシューが歯に挟まっちゃって、部屋で歯を磨いてくるね」
と言い残しジョシの部屋に行き布団に横になった。
 その後何人かが私の様子を見に来たけど、絶対に「眠っている」とは言わなかった。あくまでも「チャーシューが歯に挟まっていて取っている」と、私は布団に入り横になり目を閉じ、うわ言のように言い続けた。


 翌朝のこと、
「宴会後のお部屋の布団、タンクさんと一緒に敷いたんだよ」
とサラが言った。

「あ、気がつかなかった。ありがと」

「それがね、自衛隊と看護師の布団の敷き方同じだったの!」

「そうなんだ!発見だね!」

 その後起きてきたダンシが口々に言った。

「パン君がみんな眠ったと思ったらガバーっと起きて騒いで起こされて、しばらくしてみんな眠ったと思ったらまたガバーッと起きて騒いで起こされて。で、寝たの5時」

「ええ〜!5時!?」

 それを聞いて、

「どうしてみんな寝るの?俺はこんなに楽しいのに!」

とパン君が言った。

 その日の朝はさすがにタンクも温泉街を走るのをやめた。




2015.5.5 Vanilla記



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